RICHARD ANDERSON:揺るぎない技術が経営を支える新星テーラーの『古くて新しい』哲学・・・2
リチャード・アンダーソンのハウススタイルは、ハンツマンを踏襲したワンボタン、ノッチドラペル、サイドベンツだ。それを彼は、さらにソリッドなものへと仕上げている。
服作りの大切な要素である芯地作りを見せてもらったが、フェルトは薄めだが、キャンバス芯は密度が高く、そこにホースヘア入りの増し芯を重ねるため、どの店よりもしっかりとした感じだ。立体的に手作りされた芯地は、表地のウールに芯据えされた後に何度もアイロンをかけて平らにされる。それを服の形に組あげると、見事に立体的なラインが出て、しかも服の荷重が均等に首と両肩にかかった着やすいスーツに仕上がる。リチャードは、パターンの段階で、立体的で快適な服になることを入念に計算しているからである。
彼の知識の深さはフィッティングのときに理解できる。フィッティング・ルームは、広く、明るく、全面が鏡貼りだ。これは自分の作る服に自信がないとできないもの。なぜならタスキジワや突きジワなどの服の欠点がすぐに判ってしまうからだ。
日本のメイド トウ メジャーでは自信のなさそうな態度の若い店員がフィッティングをするが、彼らの多くは服に出たシワを単にピンでつまむことしか頭にない。これでは窮屈な服ができるだけだ。リチャード・アンダーソンは違う。前裾がカラダからやや浮いていると見るや、すぐに脇の縫製をつまむ。すると不思議なことに前裾が自然とカラダに寄り添うのである。彼はパターンを熟知しているがゆえに、こうしたスキルをさまざまに駆使できるのであろう。
リチャードによると、約150年も前にソートンという名人が考案したダイレクトメジャーリングシステムを採用しているという。日本では短寸式と呼ばれ、胸と肩まわりの複雑に曲線が交わる部分を細かく採寸するために、キマると一発で完璧な服ができるとても高度な技術だ。
「ぼくを鍛えてくれたマイスターたちに教わった通りのことをやっているだけです」とリチャード。
名人こそ謙虚なり、である。
・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:RICHARD ANDERSON】了