男子專科 2014 AUTUMN vol.2

男子專科 2014 AUTUMN vol.2

DEGE & SKINNER:ミリタリー系テーラーならではのツイードジャケットを探索する・・・1

男子專科 2014 AUTUMN vol.2 より

サヴィル・ロウには、ミリタリーテーラーという一派が昔から存在する。しかし第一次世界大戦後には、モスブロスといった既製服メーカーがミリタリーデパートを作り、安価なユニフォームを売り出す。その結果ミリタリー部門から撤退するテーラーもあったが、サヴィル・ロウにはまだ何軒かが残って商いを続けている。その理由は『ノーブレス オブリージュ』と関係が深い。

王族や貴族は特権階級だ。市民と異なり、土地や財産など、さまざまな優遇制度に守られている。しかし身分の高い人は、いざ国の非常事態になると、それにふさわしい行動をとらねばならない。真っ先に戦場へ駆けつけ、最前線で戦う義務があるのだ。国の誇りを胸に、命をかけて戦うときに着る軍服はおろそかにできない。だから軍服をビスポークする人の数は一定以下には減らないのである。しかもその軍服は、通常勤務用、正装用、イブニング用など、それぞれに揃えねばならない。そこにミリタリーテーラーの生き残る道があるのだと思う。

さらにブリティッシュ・ミリタリーウエアには、バッキングガム宮殿の近衛兵やホースガードパレードに着用される騎馬隊の制服など、古式に則ったレッドコート・フルドレスなどもある。これらは21オンス以上のヘビーな羅紗が使用され、縫うだけでも技術がいる。また所属部隊ごとに、階級章や飾りテープなどを軍の規定通りに付けることは、並大抵のノウハウではない。ミリタリーテーラーであることは、一流の技術をもつ証しでもあるのだ。

ディジー&スキナーは1865年創業のミリタリーテーラーである。今や数少ない同族経営が継承されるテーラー。そこの5代目にあたるウイリアム・スキナーは穏やかな物腰だが、英国独特のユーモアのセンスをもつ紳士だった。何も知らない筆者が、「軍服だけで何代も商売を続けるのは難しいですね」と、同情をこめた質問をしたら、ウイリアムは「たまに風変わりな歌い手からメスジャケットでステージ衣裳を作ってほしいという注文がはいるので、なんとかやっていますよ」と、ニヤリと笑ってみせた。

・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:DEGE & SKINNER】次回更新に続く