日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

ランチ・コート

海外でまったく通用しないファッション用語:ランチ・コート

ランチ・コート
ranch coat

正しくは
【シアリング・コート】
shearing coat

アメリカ西部の牧場で、いわゆるカウボーイたちが着るハーフ・コートのことをいう。ランチは牧場とか農場のことで、そこの従業員たちの防寒用として用いられたことから、こう呼ばれるものだが、本来は羊の1枚革で作られ、毛皮部分を内側にしたスエード・コートというのが本格とされる。シアリングというのは「羊の毛の刈り込み」をいい、ランチ・コートの本来の形を示している。シープスキン・コートともいい、ランチ・コートは俗称。

も俗称であるらしいが、この種のコートをさす言葉は無数にあって、驚くばかりである。ランチ・コートをはじめとして、ランチェロ・コート、ランチャー・コート、シアリング・コート、ムートン・コート、シープスキン・コート、カウボーイ・コート、ウエスタン・コート、それにモータリング・コートという別称まである。このコートはずいぶん昔からアメリカ西部のカウボーイたちに着られていたらしいが、ファッションとして登場したのは20世紀初頭。それも自動車用の防寒コートとしてであったという。だからモータリング・コートという別名があるのだ。毛を刈り込んだ(シアリング)、羊の革(シープスキン、ムートン)で作られたこのコートは暖かいことこの上なく、オープン・カーの運転には最適だったのだろう。ちなみにランチェロとは、ランチのスペイン語風表現である。後になると、コットン・スエード製、裏ボアつきのタウン・ユース用廉価版もあらわれ、実はこれが1960年代に流行をみるのだが、我が国ではこれをランチ・コートと名付けたのだ。さて、本場でこれが通じるか?もし駄目だったら前記の名称を全部試してみよう。