ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
袖のボタンの意味は?
背広上着の袖口にはいくつものボタンが仰々しく並んでいる。これをカフスボタンと呼んでいるのだが、これを最初に考え出したのはあのナポレオン・ボナパルトであったという話がある。冬の寒い季節の中で、鼻水を袖口で拭く兵士を見たナポレオン、そのみっともない行為を止めさせるために、軍服の袖口のまわりに金属製のボタンをぐるりと取り付けたのがその起こりというのだ。その後、背広の時代になって、これが袖開き用のタテ型に配列されるようになり、その部分は本当に開くようにできていた。つまり、力仕事などをする時には袖ボタンを外し、袖口を折り返したものなのだ。こうした形をあちらでは「ドクタースタイル」などといい、日本では「本開き」とか「本切羽」などと呼んでいる。現在では「開き見せ(イミテーション・カフ)」などといって、実際には開かないようになったものが大半だが、これはそうした古きよき時代の名残りといえるのだ。