服装の流行は、まず「モード」として現われる。ここでいうモードとは「最新型」という意味で、デザイナーによる「創作」などがここに含まれる。これが流行に敏感な人たちの支持を得て拡大すると、「ファッション」と呼ばれるようになるのだ。ここでのファッションとはまさしく「流行」の意味。そして、ファッションがさらに普及し、大衆の間で定着を見るようになると、これは「スタイル」という言葉に置き換わる。スタイルとは、すなわち「定型」とか「様式」の意味。これを「流行の三角構造」などと呼んでおり、ファッション界では常識的な考え方となっているのだが、実際にはモード、ファッション、スタイルの使い分けはこれほど明確には行われてはいない。近ごろの流行を見ていると、モードとして生まれてはみたけれど、ファッションになるまでに消滅してしまう例が驚くほど多いことに気づく。これを「ファド」とか「クレイズ」と呼ぶことも覚えておきたい。

62年・春夏向けの流行色のテーマ

年代別『流行ファッション』物語:62年・春夏向けの流行色のテーマ

「シャーベット・トーン」1962

1962(昭和37)年の春から夏にかけて、日本の街はシャーベット・トーンという氷菓子を思わせる甘く冷たい調子のパステルカラーにおおわれた。元々は日本流行色協会による62年・春夏向けの流行色のテーマであったが、これを繊維メーカーの東洋レーヨン(現・東レ)と化粧品の資生堂、お菓子の不二屋、それに西武百貨店が共同して市場展開し、知名度96.87%という驚くべき成功となったのだ。このような業種の異なるいくつかの企業が共同して繰り広げる宣伝方法をコンビナート・キャンペーンというが、シャーベット・トーンの成功は今でも語り継がれる一大ファッション現象とされている。このころファッション業界でもっとも力のあったのは東洋レーヨン、帝人といった繊維メーカーで、東洋レーヨンはすでに1959(昭和34)年、スキーの三冠王トニー・ザイラーを起用した「ザイラー・ブラック」なるキャンペーンを展開し、日本に「黒のブーム」を巻き起こしていた。