服装の流行は、まず「モード」として現われる。ここでいうモードとは「最新型」という意味で、デザイナーによる「創作」などがここに含まれる。これが流行に敏感な人たちの支持を得て拡大すると、「ファッション」と呼ばれるようになるのだ。ここでのファッションとはまさしく「流行」の意味。そして、ファッションがさらに普及し、大衆の間で定着を見るようになると、これは「スタイル」という言葉に置き換わる。スタイルとは、すなわち「定型」とか「様式」の意味。これを「流行の三角構造」などと呼んでおり、ファッション界では常識的な考え方となっているのだが、実際にはモード、ファッション、スタイルの使い分けはこれほど明確には行われてはいない。近ごろの流行を見ていると、モードとして生まれてはみたけれど、ファッションになるまでに消滅してしまう例が驚くほど多いことに気づく。これを「ファド」とか「クレイズ」と呼ぶことも覚えておきたい。
ザ・ピーナッツの歌った「恋のバカンス」で大ヒット
「バカンス・ルック」1963
ゴールデン・シクスティーズ(黄金の60年代)と呼ばれたこの時代、日本は高度経済成長への道をひた走りに駆け上っていった。とりわけ東京オリンピックの開催を1年後に控えた1963(昭和38)年はレジャー時代開幕の年と呼ばれ、人々はレジャー・ブームの熱に浮かされていった。こうした傾向を見て取った東レが打ち出したこの年春夏のキャンペーンテーマが「バカンス・ルック」。フランス語で『休暇』を意味するバカンスという言葉をこのとき初めて用いたのだ。英語で『休暇』をあらわすバケーションという言葉は、すでにコニー・フランシスやそれをカバーした弘田三枝子のヒット曲でおなじみだったけれど、このフランス語での表現は新鮮だった。きれいなプリント柄などを使用したサマーウエアというのが実体だったけれど、言葉の新鮮な響きとこれのキャンペーンソングともされるザ・ピーナッツの歌った「恋のバカンス」の大ヒットで、バカンス・ルックは一躍流行語となった。