日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

パンタロン

海外でまったく通用しないファッション用語:パンタロン

パンタロン
pantalon

正しくは
【ベルボトム・パンツ】
bell-bottom pants
【フレアード・パンツ】
flared pants

裾が広がるシルエットを特徴とするパンツ。パンタロンという言葉はもともとフランス語ではあらゆる種類のパンツ(ズボン)を意味するが、日本ではその導入時期の関係から、とくに裾広がり型のパンツだけをパンタロンというようになった。したがって、日本的な意味でパンタロンという言葉を使おうとする場合は、英語でベルボトム・パンツとかフレアード・パンツなどといわないと、意味が通じなくなる。

パンタロンというフランス語が日本に入ってきたのは、いつの頃だったろう。おそらく1960年代中ごろのことと思われ、私は1966年夏発行の『平凡パンチ女性版』という雑誌でこの言葉に接し、新鮮な感動を覚えた。そこには黄色のパンタロン・スーツという服を着た当時のアイドル歌手、フランソワーズ・アルディの伸びやかな姿があった。イエイエ族、ミニジュップ(ミニスカート)、サントロペ風俗など最新のフランス・モードとともに入ってきたパンタロンだったが、ここで大きな誤解が生まれた。パンタロンはパンツ全体をさす言葉なのに、当時は裾広がりのパンツが流行の先端にあったことから、フランス語ではこの種のデザインのパンツをパンタロンというのだ、というように誤って覚えてしまった。やがて時代は1970年代。パンツ・ファッションはフレアード(裾広がり)ライン一辺倒の時代に入っていく。それを代表するのが、裾を釣り鐘(ベル)のような形に広げたベルボトム・ジーンズであり、水兵のはくようなセーラー・パンツだった。その後、本国のパンタロンはどのように変化しようが、日本のパンタロンは裾ビラビラのパンツのままなのである。