ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
ベストのいちばん下のボタンは意味があるの?
ベストのいちばん下のボタンをわざと掛けないでおく着装法には、さまざまな説があるが、最も信憑性の高いものを紹介しておく。それは英国王エドワード7世の失敗説というもの。時は1900年代の初頭、オシャレで名高いこの王様が、なにをあわてていたのかベストのいちばん下のボタンを掛けないままの姿で、人前に現われたことがあったのだ。それを見た人々は「これが新しいベストの着こなし方なのか」と勘違いし、以後ボタンを外したままの格好が流行するようになったというのである。いや、ダンディーをもってなるエドワード7世のことだから、わざとそうした格好を好んでやったのかもしれないが……。いずれにしても今ではベストをいちばん下のボタンまできちんと留めて着るのは、とてもカッコ悪いこととされている。いちばん下のボタンはそのままにして遊ばせておくのがイキというもので、第一、現在では無理に留めようとしても留められないデザインになったものが多いのではないだろうか。これは3ボタン型のスーツの着こなしとて同じである。