ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
日本では結婚式には「白タイ」で葬式には「黒タイ」なの?他の国では?
日本人男性にこよなく愛されているブラックスーツ(黒の略礼服)、あれは実は日本人の発明によるものであって、国際社会では通用しない。ましてやこれに白の結び下げ式のネクタイ(シルバータイなどと呼んでいる)を着けて結婚式などのお祝い事に、黒のそれに換えてお葬式になどという使い分けをするのは、まことにもって日本的な習慣でしかない。同じ服をネクタイのチェンジだけで慶事にも弔事にも使い回しするという戦後の物不足時代的な発想は、もうそろそろ再考されてもよいように思う。とまあ、えげつない言い方をしたけれど、日本国内ではすでに一般化していることだから、とやかくはいうまい。弔事における黒ネクタイというのは万国共通だからよいとして、問題は慶事における白ネクタイだ。これこそ日本独特の礼装用ネクタイで、海外ではまず見当たらない。これに相当するのは明るいグレイの無地ネクタイで、これは本来モーニングコート用のアクセサリーとされているのである。