日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

スプリング・コート

海外でまったく通用しないファッション用語:スプリング・コート

スプリング・コート
spring coat

正しくは
【トップコート】
topcoat

春(スプリング)や秋に着る、薄手の素材で作られた軽いコート。ほこりよけと防寒を兼ねたもので、春と秋という寒暑の間(合い)の季節に着ることから、俗に「合いコート」とも呼ばれる。これは完全な和製英語で、外国ではトップコートと呼ばれるコートに該当する。ここでいうトップとは「いちばん上に着るもの」という意味で用いられているもので、欧米ではオーバーコートより軽い感覚のタウン・コートをこのように総称する。

スプリング・コートといえば、私は2つのコートを思い出す。ひとつはササール・コートで、もうひつはダスター・コート・・・・・・。ササール・コートというのは1959年の映画『三月生まれ』で、主演の女優ジャクリーヌ・ササールが着ていたコートに因んで、日本のレインコート・メーカー三陽商会が作り出したもの。それは可憐なジャクリーヌ・ササールのイメージともよくマッチして大ヒットし、三陽商会を日本一のコート・メーカーに押し上げた。ダスター・コートは、その名のとおり「ほこりや塵をはらう」コートという意味で、まさしくスプリング・コートを代表するようなアイテム。ダスターと呼ばれるコートは昔から存在したのだが、日本で大流行するのは1950年代終わりころからのこと。そして、これにも映画が大いに貢献している。それは石原裕次郎主演の日活映画『俺は待ってるぜ』で、この中で裕ちゃんの着たオフホワイトのショート・ダスターが、若ものたちの圧倒的な人気を得たのである。ともに映画が作り上げたコートということで、キネマ世代の私にはなつかしい限りなのだが、ダスターはともかく、ササール・コートという名称も通用しない。