日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

ケミカル・シューズ

海外でまったく通用しないファッション用語:ケミカル・シューズ

ケミカル・シューズ
chemical shoes

正しくは
【プラスティック・シューズ】
plastic shoes
【カジュアル・シューズ】
casual shoes

ケミカルは「化学の・化学的な」という意味で、いわゆるケミカル・レザー(合成皮革・人造皮革)やビニール、ナイロンなどの化学的な素材を甲部に用い、合成樹脂や合成ゴムの底を接着製法でつけて仕上げた靴を総称する。ケミカル・シューズという呼称は日本特有のもので、英語で正しくいうなら素材感からはプラスティック・シューズ、安価で気軽にはけるというイメージを強調するなら、カジュアル・シューズという表現が適当。

あの阪神・淡路大震災(1995・1)の起こる前、神戸市の長田区へよく通っていたことがある。ここは国内一のケミカル・シューズ産地で、私はここの靴関係の組合にセミナー講師として、定期的に出講していたのだ。だから、ケミカル・シューズについては、他の人よりも少しは詳しい。現在、住民の五分の一以上が靴関係者という神戸・長田地区で、靴の製造がはじまったのは、明治から大正にかけてのことだったという。もともとは神戸港に入ってくるゴムの原料加工をルーツとし、最初のうちはゴム長靴や地下足袋(じかたび)、運動靴の生産を中心としていた。それが素材の発達によってケミカル・シューズの製造へと発展するのが、1952(昭和27)年ころのこと。以後、ケミカル・シューズは安価で手軽な実用靴として、大きく成長してゆくのである。ケミカル・レザー使いの靴だからケミカル・シューズと名づけたのだろうが、英語の世界ではこの種の素材はプラスティックが普通。だから向こうではプラスティック・シューズといわないと通じない。カジュアル・シューズと付記したのは、あくまでも感覚的な呼称であり、ケミカル・シューズそのものをいうわけではない。