男子專科 1986年3月号 NO.264 より

男子專科 1986年7月号 NO.268 より

オーソン・ウエルズ(アメリカ:映画作家&俳優:1915~1985)-2

頂上から始めるのはつらいものさ。

このマーキュリー・シアターの名前は、たちまち全米に知れ渡るようになる。1938年10月30日の日曜日。夜8時からはじまったコロンビア放送のラジオ・ドラマ『宇宙戦争』が、時ならぬパニック現象を引き起こしたからです。H・G・ウエルズのSFノベルをラジオ・ドラマ化したこの放送では、火星人の襲来によって地上の防衛軍がつぎつぎに潰滅してゆく模様が演じられてゆく。その極めて迫力に富んだセリフに音響効果、そしてなによりも冴えていたのは、アナウンサーが臨時ニュースを伝えるという大胆な手法を使ってドラマの幕が切って落とされる演出でした。

こうしたドキュメンタルな構成によって組み立てられたこのドラマを聴いた聴取者のなかには、これはフィクションじゃなくてやっぱり「本物のニュースにちがいない」と信じこんでしまったひとびとがたくさんいたらしい。ほんとに火星人が殺人光線を狂ったように発射しながら地球に攻めこんできたものと信じてしまい、泣きながら逃げだしたり、教会に駆けこんで祈ったり、救急車やパトカーを呼ぼうと電話に飛びついたり・・・といったパニック行動を起こしたひとびとの数は、のちの調査によるとおよそ100万人にも達していたそうです。

・・・次回更新に続く