男子專科 1986年7月号 NO.268 より
オーソン・ウエルズ(アメリカ:映画作家&俳優:1915~1985)-5
頂上から始めるのはつらいものさ。
処女作に「一世一代の傑作」をもってしまった作家の悲劇とでも言ったらいいのでしょうか。恐るべき神童ウエルズのイメージは、俳優としての仕事を重ねるうちにだんだん薄まってゆきます。しまいには「ただの性格俳優」ならまだしも、「ペリエ」や「ポール・マッソン・ワイン」のテレビ・コマーシャルで「おなじみの顔」といったところにまで落ちこんでしまう。そういえば、日本でも某ウイスキー会社のキャラクター・フェイスになったり、最近では英会話教材の「先生」までつとめて、あのヒゲづらを英語コンプレックスに悩むニキビづらの少年少女相手の宣伝ページにさらしている。胸が痛むハナシであります。
1970年。55歳のウエルズに対して「アカデミー特別賞」が贈られたことがある。その多彩な映画人としての活動に敬意を表してこの賞が贈られたとき、ウエルズはこんなふうに言ったそうです。
「いまや、私は、根の死んでしまった古いクリスマス・ツリーさ」
こうした悲しいジョークをつねにしゃべらなければならない「元神童」のつらさ。キャロル・リード監督の『第3の男』で演じた悪党ハリー・ライムのしたたかなイメージにくらべると、その最期はいささかあっけないものでした。「享年70歳」はちょっと早過ぎる感じですが、神童の重荷を背負いつづけたヒトとしてはよく生きのいたと言ってもいいのかもしれません。
・・・次回更新に続く