男子專科 1986年3月号 NO.264 より

男子專科 1986年7月号 NO.268 より

オーソン・ウエルズ(アメリカ:映画作家&俳優:1915~1985)-8

頂上から始めるのはつらいものさ。

作品自体のオリジナル・アイデアについても、自分の発想であると主張してきたウエルズに対して、マンキウィッツの友人たちは、いやそうじゃないよ、と反論している。原案をいち早くあたためていたのもマンキウィッツだったという証言もあらわれ、どうも神童の旗色が悪くなっているようです。だが、仮にマンキウィッツのほうに分があったとしても、『市民ケーン』はやはりウエルズ以外誰の作品でもあり得ない。ウエルズという鬼才、いや怪才(!)が存在しなかったら、『市民ケーン』を映画史に残る名作に作りあげるこはできなかったにちがいないからです。しょせん、シナリオは紙のうえに書かれたプロットに過ぎない。まして怪物ハーストから発想した人物を映像化しようと思ったら、それに匹敵する破天荒なものを自身の感覚の内部に持っていなければなりません。「ムービー・スタジオは、これまでに少年が持った最高のオモチャだね」と言っていますが、こうしたぬけねけとした不敵さと毒舌感覚、そして顔に似合わない(?)詩的感性の鋭さをオーソン・ウエルズはたっぷりと隠し持っていました。

「人生には我慢のならないものが3つある。冷めたコーヒー、ぬるいシャンパン、そしてかしましい女ども」

そしてウエルズはこうつぶやきながら『市民ケーン』という名のこの世の最高の料理をあまりにも早く食べてしまった不幸な美食家のように長い日々を生きたヒトでした。

・・・了