ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。

裾のターンナップ(通称ダブル)には意味があるの?

服装スタイルの「謎・不思議」: 裾のターンナップ(通称ダブル)には意味があるの?

男性のパンツの裾の折り返し(これをターンナップ、カフ、マッキン、ダブル、カブラなどという)が付くようになったことについては、いくつかの面白い話がある。20世紀初頭のニューヨークで雨の中、結婚式の参列に急ぐ紳士が泥はねを除けるためにズボンの裾を折り返し、そのままの格好で会場に入ったところ、これがオシャレ紳士の最新の着こなしと勘違いされて流行するようになったという話。また信憑性の高いところでは、1893年のある日、英国下院議員のルイスハム子爵が、ぬかるんだパドックでズボンの裾を捲り上げたのがスマートに見え、そこから流行が広まったという話もある。子爵は馬主でもあったのだ。このようにターンナップは偶然のきっかけから始まったとする話が多いように、最初から意味のあるデザインであったわけではない。意味があるとしたら、19世紀中葉に英国のジェントルマンたちが郊外を歩く時、潅木の茂みから裾口を守るために折り返したという説に軍配を挙げておきたい。