ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
ジーンズのフロントサイドにあるコインポケットはなぜあんなに小さいの?
まず、なぜコインポケットと呼ぶかということについて考えてみよう。コインとはいうまでもなく「硬貨」のことであって、硬貨をいくつか入れておくにはあれはちょうどよい大きさなのではあるまいか。あれより大きくすると、今度は逆に落としやすくなって困ることになると思う。次に別の観点からお答えすると、コインポケットは別に「ウォッチポケット」とも「フォブポケット」とも呼ばれる。これはともに懐中時計用の小型ポケットの意味で、昔のズボンには不可欠とされたクラシックなディテール・デザインのひとつなのである。そしてあの大きさは懐中時計を入れておくのにちょうどよい寸法となっているのだ。このコインポケットの付いたファイブポケット型のジーンズが誕生したのは1877年のことで、これがあのリーヴァイス501の原型とされている。そのころはウォッチポケットが付くのは当たり前の時代で、ジーンズのデザインはそれを踏襲して現在に至っているのである。