日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

ズボン

海外でまったく通用しないファッション用語:ズボン

ズボン
zubon
あるいは
スラックス
slacks

正しくは
【パンツ】
pants

いわゆる「ズボン」をいう英語だが、日本では替え上着と組み合わせて用いる「替えズボン」や、女性用のテーパード(裾すぼまり)型のカジュアルなパンツをさすニュアンスが強い。スラックとは「ゆるい・たるんだ」の意で、もとは「だぶだぶの袋」を意味する軍隊用語としてアメリカで用いられていたが、1930年代になって一般化し、やがて本国では使われなくなってしまった。ズボンという意味からすれば、アメリカではパンツというのが適切だろう。

ズボンはまぎれもない日本語である。″ズボン″と穿くからからズボンというのだ、と幕臣の大久保誠知なる人物が名付けたという説が、さる文献に載っている。ズボンは日本語なのだが、では世界各国では何というのだろうか?アメリカではパンツpants、イギリスではトラウザーズtrousers、フランスではパンタロンpantalon、イタリアではパンタローネpantalone、ドイツではホーゼンhosen、そしてスペインではパンタロネスpantalonesとなる。そして、ここからが面白いのだが、日本人はこれらを都合のいいように使い分けるようになったのである。つまり、チノーズのようなスポーティーなズボンはアメリカ風にパンツ、スーツやフォーマル・ウエアのズボンはイギリス風にトラウザーズ、裾の広がった優雅なズボンはフランス風にパンタロン、そして替え上着などに合わせる替えズボンはスラックスと呼ぼうではないか、というように……。考えてみれば、これは実に日本人的な発想。アメリカでは、ドレス・パンツ(スーツ下タイプ)という言葉はあるが、ズボン類はすべてパンツでこと足る。スラックスは死語になってしまったが、日本では生きている。