日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。
スリーピース
スリーピース
three-piece
正しくは
【スリーピース・スーツ】
three-piece suit
または
【ディトーズ】
dittos
スリーピース・スーツの略。上衣、ベスト、パンツの3つを同じ生地で仕立てて組み合わせた一式で、いわゆる「三つ揃い」「三つ組み」の背広をいう。スリーピースは、3つの部分品から成るものの意で、単にスリーピースというだけでは、ジャケット、ブラウス、スカートあるいはパンツの三者を組み合わせた婦人服のことも意味するから、注意が必要である。本当のシャレものなら、きちんとスリーピース・スーツ、またはもっと本格的にディトーズなどといいたいものである。
ソフト・スーツやコーディネート・スーツなど新しい感覚のスーツをニュー・スーツというのに対し、昔ながらのオーソドックスなスーツをリアル・スーツ、すなわち「本当のスーツ」と総称する向きがある。そうしたリアル・スーツの中にあって、本物の中の本物といえるのが、スリーピース・スーツであろう。日本では古くから「三つ揃い」などと呼ばれるそれは、他にスリーピーセスとかスリーピーサーズともいうが、日本のようにスリーピースと略して呼ばれることはない。フランス語では、背広や男子用上着のことをベストンといい、共地のベストを伴ったスリーピース・スーツのことをコンプレ・ベストンcomplet veston、これを略してコンプレという。コンプレとは、本来は「全部揃った・完全な」の意。これに匹敵する英語にはディトーというのがあり(本来は、同種のものという意味)、ここから完全な「三つ揃い」のことをディトーズとかディトー・スーツと呼んでいる。ディトーズは1740年代から使われているきわめて歴史のある言葉だが、それだけになんとも重みを感じさせる。すべてが軽きに流れる時代の中で、本物のスーツのよさを実感させる言葉だ。