服装の流行は、まず「モード」として現われる。ここでいうモードとは「最新型」という意味で、デザイナーによる「創作」などがここに含まれる。これが流行に敏感な人たちの支持を得て拡大すると、「ファッション」と呼ばれるようになるのだ。ここでのファッションとはまさしく「流行」の意味。そして、ファッションがさらに普及し、大衆の間で定着を見るようになると、これは「スタイル」という言葉に置き換わる。スタイルとは、すなわち「定型」とか「様式」の意味。これを「流行の三角構造」などと呼んでおり、ファッション界では常識的な考え方となっているのだが、実際にはモード、ファッション、スタイルの使い分けはこれほど明確には行われてはいない。近ごろの流行を見ていると、モードとして生まれてはみたけれど、ファッションになるまでに消滅してしまう例が驚くほど多いことに気づく。これを「ファド」とか「クレイズ」と呼ぶことも覚えておきたい。

クリスチャン・ディオールのデビュー作品

年代別『流行ファッション』物語:クリスチャン・ディオールのデビュー作品

「ニュールック」1947

60年に及ぼうとする戦後ファッションの流れの中で、特筆すべきは「ニュールック」の存在であろう。1947年春夏のパリ・オートクチュール・コレクションに登場したこれは、巨匠クリスチャン・ディオールのデビュー作品で、本当は「8ライン」とか「カローラ(花冠)ライン」と呼ばれていたものを、そのあまりの新しさからマスコミが「ニュールック」と名付け、たちまち世界中に広がったもの。小さく造形された肩と細くくびれたウエスト、そこから花びらのように大きく広がるロングスカートのシルエットは、それまで見慣れた怒り肩のミリタリー・ルックを色褪せて見せ、世の女性たちに戦争が終わったことを実感させるに十分な魅力を持っていた。たっぷりと布地を使うフレアー型のロングスカートは、平和な時代の女らしさの復活を象徴していたのだ。しかし、この新しいモードの波が日本に上陸するのは、アメリカを経由した1年後のことであったという。