昨日と今日の男の博物誌:サム・シェパード 男子專科 1986年2月号 NO.263

男子專科 1986年2月号 NO.263 より

サム・シェパード(アメリカ:劇作家・俳優:1943~)-1

天才?不満足が少し深いだけさ。

途方もない男がいるもんだな。

映画『ライト・スタッフ』で不死身のテスト・パイロット、チャック・イエーガーを演じたサム・シェパードの「素顔」を知ったときは、ほんとに驚かされたものです。

トム・ウルフの傑作ノン・フィクションを映画化したこの作品に登場する男たちはみな実在の人物ですが、チャック・イエーガーもまた「音の壁」を最初に破った名パイロットとして知られている男です。革ジャンにブーツ。ガムを噛みながら不敵なうす笑いを口元ににじませ、危険極まりないテスト飛行の仕事をまるで日曜日のドライブにでも出かけるような気楽な調子でやってのける男イエーガー。

その伝説的なクールさと屈強さを、サム・シェパードはじつに鮮度あざやかにくっきりと演じて見せてくれたものでした。

そして、この映画からアカテミー賞にノミネートされたただひとりの俳優となったわけですが、そのヒトの本業がじつは俳優なのではなくて「劇作家」だなんて信じられるでしょうか。ハンサム・ガイという言葉がありますが、サム・シェパードはタフでハンサムで寡黙なアメリカン・ナイス・ガイの極めつきといった風貌の持主です。締まって逞しい口元といい、不思議な光をたたえた野性味に満ちた目といい、女殺しの爆薬が張りのある皮膚の下にたっぷりと隠されている危険なにおいにもつつまれています。

・・・次回更新に続く