ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。

モーニング・コートのいわれは?

服装スタイルの「謎・不思議」: モーニング・コートのいわれは?

モーニング・コートは、今では昼間の男子礼装における第一礼装(正装)とされるようになっているが、元々はフロック・コートの略装とされる日常着のひとつだった。フロック・コートというのは1815年ごろに完成を見たといわれる両前型の重厚な長上着で、日中の通常着(仕事服)として用いられていた。フロック・コートも元はといえば1730年代に登場したフロック(フランスではアビ・フラック)の発展形なのだが、当時の英国では人を訪ねるのは午前中にすべしという不文律があった。自動車もまだない時代、男たちは馬に乗って行かざるをえないのだが、そうなるとフロック・コートの長い裾が邪魔でしようがない。そこで裾の両端をはしょって後ろに回し、ベント(馬乗り)の上部に取り付けた小さなボタンでそれを留めるようにしたのだ。そのうち、これも面倒ということになって前裾を大きく切り落としたスタイルのフロック・コートが登場する。これをカッタウエイ・フロックコートと呼んだものだが、やがて午前中の訪問に用いる服ということで、モーニング・コートという名称が定着していったのである。