ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
なぜスーツには雨ぶたポケットが多いの?
フラップポケットのことを日本の古い洋服用語では「雨ぶた隠し」という。雨ぶた(フラップ)が付いた隠し(ポケット)ということで、文字通り雨を除けるという目的を持っている。スーツにはほとんどの場合このフラップポケットが上着の両脇に付くけれど、タキシードや燕尾服といった礼服に、この形のポケットが付けられることはけっしてない。もしフラップポケット付きのタキシードがあったら、それはまがいものか、よっぽど遊び心に満ちたものと思ってよい。つまり、タキシードは室内専用の服であって、けっして外に着て出るものではないから、雨除け用のポケットなんて必要ないというのが、そうしたデザインの基本的な考えとなっているのだ。対してスーツというのは本来仕事着であった。雨の降る日に着ていくこともあるだろうということで、アウトドア仕様のフラップポケットが採用され、それとバランスをとる意味で、胸はウエルトポケット(箱ポケット)となったのである。