服装の流行は、まず「モード」として現われる。ここでいうモードとは「最新型」という意味で、デザイナーによる「創作」などがここに含まれる。これが流行に敏感な人たちの支持を得て拡大すると、「ファッション」と呼ばれるようになるのだ。ここでのファッションとはまさしく「流行」の意味。そして、ファッションがさらに普及し、大衆の間で定着を見るようになると、これは「スタイル」という言葉に置き換わる。スタイルとは、すなわち「定型」とか「様式」の意味。これを「流行の三角構造」などと呼んでおり、ファッション界では常識的な考え方となっているのだが、実際にはモード、ファッション、スタイルの使い分けはこれほど明確には行われてはいない。近ごろの流行を見ていると、モードとして生まれてはみたけれど、ファッションになるまでに消滅してしまう例が驚くほど多いことに気づく。これを「ファド」とか「クレイズ」と呼ぶことも覚えておきたい。

いままでの価値観を一新させるニュー・コーディネーション

年代別『流行ファッション』物語:いままでの価値観を一新させるニュー・コーディネーション

「レイヤード・ファッション」1970~

「レイヤード・ルック」という耳慣れない名のファッションが流行し始めたのは1970(昭和45)頃のこと。要は「重ね着スタイル」で、セーターにカーディガンを重ねるといった着方は昔からあったが、これはその重ね方に独特の工夫があったのだ。たとえば長袖のシャツの上に半袖のセーターを重ねるといったスタイル。半袖の下から長袖がのぞく着方なんてみっともなくて、まるで子供みたいな無作法な着こなしと見られていたのが、ここではファッションとして堂々とまかり通るようになったのである。これには当時創刊されたばかりの女性ファッション誌『アンアン』の力が大いに作用している。それまでのファッション誌とは一線を画す『アンアン』は、コーディネートという名の下に新しい着こなしを次々と提唱していった。そのひとつが「レイヤード」で、これはまさに過去の価値観を一新させるニュー・コーディネーションであった。