「取るに足らぬこと、些細なこと」を英語でトリビア trivia といい、当時のテレビ番組『トリビアの泉』以来、大変な雑学、蘊蓄ブームを巻き起こすようになっているが、ファッションの世界にはこれに類するトリビアがことのほか多く見受けられる。たとえば「腹巻き」は16世紀のヨーロッパで生まれ、日本では明治時代にキモノから洋服に変化したときに帯の代わりに用いられたという。またトートバッグはもともとキャンプ地で水を運ぶために使われていた、というのもこれを知らない人にとっては「目からウロコ」の話となるだろう。ファッションに関するトリビアは語源や発生にまつわる話が多いけれど、それを知っているとつい誰かに自慢したくなるものだ。それこそトリビアのトリビアたるゆえんなのだが、あの女性ファッション誌『JJ』のタイトルが「女性自身」のアルファベット綴りの略からきているって知っていました?
ナイロンの語源は日本の農林省
ナイロンといえば「鋼のように強く、クモの糸のように繊細」という有名なキャッチフレーズで知られる化学繊維の代表的な素材だが、このネーミングは日本の「農林省」と深く関係している。ナイロンは1938(昭和13)年にアメリカのデュポン社が開発した夢の繊維のひとつだが、その目的は「打倒絹靴下」にあった。当時、絹靴下の原料である生糸は日本が圧倒的なシェアを占めており、世界の工業先進国たるアメリカはこれに忸怩たる思いを抱いていた。そこでこの新繊維の名前を付けるにあたって、デュポン社は生糸を管轄している日本の農林省を狼狽させようと、「農林」のローマ字表記であるNolynを逆から読んでNylon(ナイロン)とネーミングしたのである。絹の靴下に比べるとはるかに安価で、かつ丈夫なナイロン・ストッキングは爆発的な売れ行きを示し、日本の絹靴下を駆逐していった。太平洋戦争が起こる前、すでに日米間の戦争は始まっていたのである。